「知られていない、興味を持たれてないという前提から、始めないといけないってことですよね。大変だなぁ」
終了間際、参加者から溜息混じりの感想が漏れたとき、わたしは飛び上がるほど嬉しかった。広報ゼミとしてスタート地点にちゃんと立った手応えを感じたからだ。
2018年8月23日、徳島県県民文化課・あわ文化可能性創造事業の一環として、「届ける広報ゼミ」の第一回を開催した。
※本事業では、徳島県庁が県内の文化団体/自治体を対象に参加団体を公募。選定された団体がアドバイザーと共に議論を重ね、年度末までに何かしらの広報的アウトプットを行う。参加が決定したのは、特定非営利活動法人 阿波農村舞台の会、藍住町、牟岐子どもフラメンコ推進協議会の3団体。ただし、沿岸部にある牟岐町の団体は、台風20号の影響により今回は残念ながら欠席。
初回テーマは、「広報の悩み」。
最初にアドバイザーのわたしが、本ゼミでの「広報コミュニケーション」の捉え方を共有し、いくつかの事例と話題を提供した。その上で、それぞれの団体が悩みを披露し、お互いに意見を出しながら、ひたすら悩みを見つめる時間を過ごす。
予想以上に議論が白熱……というより悩みが噴出し、2時間の予定があっという間に1時間オーバー。みなさん悩んでいるだなぁ、と、しみじみ感じた初回だった。
▼話題提供用スライド
https://www.slideshare.net/nakatakazue/2018082312018
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悩みを見つめれば見つめるほど、悩みが深まり、参加者は頭を抱える。
わたしからすると、どの悩みも“越え甲斐”があって魅力的だと思う。その上、どれも広報のテクニックだけでは根本的に解決できない悩みなのが良い。
悩みを卓上にあげ、他者と共に眺めてみると様々な発見がある。自分達の「当たり前」がそうでなかったり、意外な人が新たな視点を持ち込んでくれたり。
なにより、広報の悩みを超え、活動全体の悩みにまでたどり着くことで、団体としての方向性や意思が見えてくる。この「活動の意思」こそ、広報で最も大切なものだ。
また、各団体の悩みをぐるぐる煮詰めていくうちに、広報にまつわる根本的な「問い」にもたどり着く。それをまた議論していくことで、「情報を届ける姿勢」も定まる。例えば今回は、こんな問いが湧き出た。
巷にあふれる広報の教科書的ビジネス書を拡げると、載っているのはトレンドやテクニックの解説ばかり。しかし、「広報=パブリック・リレーション」の語義に立ち戻るとき、大切なのはテクニック以前に、まず関係を紡ぐための姿勢であり、視点だ。
だからこそ、ちゃんと悩み、発信主体者である自分が何者であるか問うことは、とても重要。いい話ができたなぁと思う。わたし自身もとても勉強になった。
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さて、悩むだけ悩んだその後はどうするかというと、課題を乗り越える方法は各自で考え、最初の一歩となるステップもみずから設定し、やってみることを「宿題」にした。その過程と結果を持ち寄り、次回また話し合う予定だ。
なんと遠回り! だけど、このゼミでは賞味期限の短いテクニックではなく、長く何年も使える「広報思考」を鍛えていきたい(わたし自身も!)。 なので3月末まで思い切り遠回りする予定だ。それこそ、こういう機会だからこそ出来ることだと思う。
帰り際、「面白かったです。自分も仕事の中で『宿題』考えてやってきます!」と、若い県職員(今回の事業担当ではない)の方に声をかけてもらった。とてもとても嬉しい。どうなるかな。
それではまた次回!
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“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。