「もったいない」が飛び交う広報ゼミナールをつくろう

「もったいない」が飛び交う広報ゼミナールをつくろう

日記 - 2018.7.11

“考えさせられる”お土産

「これね、なかなか考えさせられるお土産なんですよ」

7月10日、徳島県庁県民文化課の伊澤さんが、ニヤリと微笑みながらお土産をくれた。それは、徳島の名産品のひとつ、伝統的な製法でつくられたお砂糖「阿波和三盆糖」だった。

手渡された和三盆の包みを眺めてみる。シンプルな和三盆だな、と思った。凝った形もしていないし、包装も簡素だし。空港などで見かける他の和三盆は、もっと華やかな形のものが多いのに。

「見た目が素朴でしょう? でもここの和三盆は、日本で唯一、竹糖だけを使ってつくられているものなんです。とても品質が高いし、一般にはほとんど流通していない。もちろん価格も安くないんですよ」

竹糖(ちくとう)。この時初めて聞いたけれど、それはサトウキビの一種で、育てるのにとてもとても手間のかかる植物らしい。昔の和三盆は竹糖でつくられていたが、栽培が大変なので、今ではほとんどの製糖所が竹糖以外のサトウキビを多く使っているとのこと。

だが、いただいた和三盆の製糖所だけは、みずから育てた竹糖を使い、ほぼ100%の純度でつくっているらしい。確かに、今まで口にしたどの和三盆よりも、香りがはっきりしていて、溶けるように甘かった。ちょっと、凄い。

それにしても……この特別な和三盆、そんなに希少で伝統的な物だとは伝わりづらい。

嗚呼これは……

「もったいないですねぇ!」

伊澤さんとわたしは、目を合わせて頷きあった。

「ね。広報コミュニケーションを考える上で、すごく良いお土産なんですよ。他に伝え方はないのか、製品と人がどういうコミュニケーションをとるべきか」

ニコニコ笑う伊澤さん。薄々気づいていたけれど、この人は敏腕コミュニケーターだ。これから始まるプログラムがとんでもなく楽しみだな、と、思った。

阿波和三盆
竹糖にこだわった阿波和三盆糖。徳島県阿波市の服部製糖所がつくっている。製菓用がメインなので、お土産用製品はとても少ないらしい。

ゼミ形式で考えてみる

伊澤さんが担当している徳島県庁の「あわ文化可能性創造事業」は、県内の意欲ある文化団体と専門家をマッチングし、文化活動を支援する新しい取り組みだ。

わたしは広報コミュニケーションの専門家として、今年度、同事業の「あわ文化創造アドバイザー」に任命いただいた。そしてこの夏から、公募で選出された3つの団体と複数回に渡るアドバイザープログラムを始める。

1団体だけの相談に乗り、徹底的に伴走するというやり方もあったけれど、わたしと伊澤さんは相談の上、複数団体が参加する「ゼミ形式」で、しっかり議論しながら進めることにした。

他者は自分を映す鏡。自分のことだけを考えるより複数人で考えた方が気づきが多いからだ。

「もったいない!」に気づくこと

竹糖の和三盆が真ん中に置かれたこの日も、プログラムの進め方や、基本の方針、各参加団体の課題などを確認し、相談する打ち合わせだった。

そうして、わたし達が決めたのは、この広報ゼミを「もったいない!」が飛び交う学びの場に育てること。

魅力的なのに、伝わらないなんて、もったいない!
方法が沢山あるのに、試してみないなんて、もったいない!
活動しているのに、記録が残らないなんて、もったいない!

「もったいないな〜」と、ちゃんと気づいて、ちゃんと悔しがる。

それは、どんなアカデミックな知識より、最新のテクニックより、大切なことだと思う。

そして、こんなユニークな公共文化事業の舞台裏が知られないのは“もったいない”ので、わたしがそのプロセスを記録していくことにした。

がんばります。

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*追伸:お土産商品はシンプルですが、「服部製糖所」さんのウェブサイトでは、竹糖や製法についてとても丁寧に解説されています。オンラインショップもあるようなので、気になる方はぜひどうぞ。

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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