左の頬を打たれたら。

左の頬を打たれたら。

日記 - 2017.6.17

*本記事はアーツカウンシル東京在職時に執筆していたMedium Magazine「ヤギに手紙を届ける」から転載しました。

「いい? かずえ。左の頬を打たれたら、右の頬を差し出しながら、抱きついて大好き!って言うのよ。それがPRの仕事よ

社会人生活も満10年。それなりに働いてくると、わたしを導いてくれた大先輩達のありがたい教えがお腹の中にだいぶ貯まっていて、時折、何かのきっかけでピョンと浮き上がって来ることがあります。

人生で一番インパクトのあった教えは、冒頭のフレーズ。

どこかで聞いたことのある救世主の教えからさらに一歩踏み込んでいるような…。絵にするとこういうことかなと思って、なぜか今さっき描いてみました。(ひまなのだろうか)

「左の頬を打たれたら、右の頬を差し出しながら、抱きついて大好き!って言う」の図

こわい。

これは、こわい。

普通の相手なら戦意を失う。

25歳でベンチャーのひとりPRになってしまった頃、「どんなに不当な扱いをしてくる嫌な相手でも、あなたは会社を代表して対外的なコミュニケーションをとる職種なのだから、絶対に反撃してはいけない」と、ボスから言い聞かされたのがこの一節でした。

でもこれは「我慢しろ」「パワハラに耐えろ」「愛想振りまけ」ということではなく、若くて諸先輩方から舐められがちな社会人3年生が、ある種の凄みを身につける秘技の伝授。…だったのだと思う。

だって、こわいもの、これ。

そういえば、「苦手だと思う相手ほど、密に連絡するように」とも教わりました。今思い返せば、当時はもともとはPRなんて全然向いていない引きこもり体質の自分に、タフな案件が山積みの頃。この秘技ポジティブ返し的な教えによって乗り切れた…気もする? (でもこれは対外的な秘技であって、チーム内では腹を割った対話するべし。あともちろん比喩なので仕事相手に抱きついてはいけない。)

わたしの広報・コミュニケーションのお師匠はふたりいて、ひとりはこの前ボスでした。

紋切り型の“広報担当者”じゃダメ。 パブリックリレーションズの語義をよく考えて行動してね」としっかり5年間育ててくれました。本当に感謝しています。

思い出話ついでにもうひとつ大事な教えがあって。

「世の中は振り子。振り切れてるときは反対側を見るのよ」の図

世の中は振り子。振り切れてるときは反対側を見るのよ

これは、最初の就職先で広報の基本を教えてくれた大先輩のフレーズ。何か偏った傾向に世の中があるときは、その真逆に次は振れるから「反対側の準備」をしておけ、ということ。

流行りすぎのものは、炎上の警戒を。

デジタル的な打ち出しが過ぎたら、フィジカルな言葉を探す。

速いことが当たり前になったら、遅いことを考える。

抽象的な教えだけれど、発信担当としてメッセージやコンテンツトーンの切り替え時、テーマの潮時を考えるのにとても役立っています。新卒1年目の新米に、真剣にこれを教えてくれた先輩は本当に素晴らしいと思う。

先日、スーパーで、「インスタ映えしますよ〜」と某海外ビールブランドの売り子さんが叫んでいてずっこけたのですが(だって品質でも味でもなくインスタ映えって!)、そういう視覚に寄りすぎている今は逆のことを考えないといけない。

…なんてことは、賢い人たちはもう気づいているんだけれど、そういうアンテナがなくても、「そうだ振り子振り子」と思い出せるから、先輩の教えは本当に重宝しています。

ありがたい、ありがたい。これからも大事にしよう。

(特にオチなし。思い出したのでメモ)

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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