言ってること、やってること、考えてることの差を埋める<br>(”信頼”とコミュニケーション・デザイン)

言ってること、やってること、考えてることの差を埋める
(”信頼”とコミュニケーション・デザイン)

日記 - 2017.1.17

*本記事はアーツカウンシル東京在職時に執筆していたMedium Magazine「ヤギに手紙を届ける」から転載しました。

所属する事業チームに「コミュニケーション・デザイン担当」という役ができ、ボールが飛んできて、受け取って1年。ひとまず、“広報的所作”の勘を取り戻そうとはじめた記事の1本目で、「コミュニケーション・デザインとは何だろう」と綴ったのが去年の今頃でした。

>そして、ぜんぶ、人になった。(広報とコミュニケーション・デザインは違うのか)

ここで書いたように、ベンチャーのPR職を務めていた前職では、裁量も自由もスピードも手中にあり、「人がメディアで / コミュニティがブランド」に育つよう、コミュニケーション活動をグルグルガンガン回していました。

でも、現在の職場はその真逆。パブリックセクターで同じやり方を通そうとすれば軋みが生まれ、疲弊するのみ。そもそも、組織/事業が違えば、価値やゴールも異なります。手法から考え直すしかありません。では、いったいどうすれば……?

うーんうーんと唸りながら、助けてー手伝ってーと声を上げながら、たどり着いたのは、「言ってること、やってること、考えてることの差を埋める」ことでした。

「信じられない」から逆算する

コミュニケーション・デザインで築こうとしている「ブランド」とは、「信じられる証」のこと。その逆の「信じられない」をイメージしてみるとやるべきことがみえてきます。「言ってることとやってることが違う、やってることと考えてることが違う、考えてることと言ってることが違う」だけでもう、理解は得られないし、信じてもらえません。人はその匂いを敏感に嗅ぎ取ります。

だから言ってること、やってること、考えてることの差を埋めればいい。

インハウス(組織に内在化された)の広報やコミュニケーターの強みであり、仕事の面白さは、「言っていること(発信)」だけでなく、「やってること(事業)」「考えていること(戦略/設計思想)」まで踏み込めることです。そしてどんな組織もこの3つにはだいたい差分があるもの。

戦略・事業・発信の間にある温度差を正しく感知し、全体のバランスを図るためのアクションに落としていくことで、組織/事業が人々から信頼してもらえる状況をつくる。それがコミュニケーション・デザイン担当の仕事ではないでしょうか。と、いうのが2017年現在の最新仮説です。

(↑信用ならない例)

差分を見つけ、アクションをリストに

ということで、この1年、具体的にはこんなことをしました。

自分たちの事業(※現在わたしは、ひとつの事業チームに特化したコミュニケーションを担当しています)における、本来の設計思想、事業としてのフェーズ、類似の取り組みとの違い、今まで言語化してきたこと/してこなかったことの把握。そして戦略上の課題、活動上の課題、広報上の課題の洗い出し。その上で、「足りないこと」「ズレていること」にアタリをつける。

……と書くと立派そうですが、ようは単純にちゃんと見る、知る、考える、「アレこれおかしくない?」と整合性がとれていないところを探して指差しをする、という作業です。

そこから単年度の目標をだし、解きたい誤解/伝えたいメッセージに落とし込み、なるべく具体的なゴールイメージを描きました。たとえば、「●●というキーワードが▲▲よりも知られる」とか、「●●のタイミングで、狙い通りのフィードバックや応募が得られる」とか。

仕上げとして「やっていることの改善(事業品質の向上)」「言っていること/伝え方の改善(活動アーカイブ、ブランディング、チャネル開発)」「考えていることの可視化/考える場の設定(インナーコミュニケーション)」のカテゴリごとに、具体的なアクションのリストをつくりました。このアクションは、「できた/できない」の判断が明確につく粒度で、予算や担当、着手/完了時期に落とせるレベルに設定します。

実際のフォーマットはこんな感じ。

戦略管理シートを週1回ながめながらチームでToDoを消化していく

このシートを毎週、戦略チーム(コミュニケーション・デザイン担当だけではなく、通常業務と兼務で事業チーム全体のことに取り組むグループが新設されました)で確認し、取り組みながら、また日々の業務の中で見えてきた課題はさらに追加しながら進めていったのがこの1年です。ざっとかぞえて30個ぐらいの改善や新規タスクをチームで消化しました。

タスクリストはどこでもつくると思うのですが、常にその上に、コミュニケーション中心の目標/メッセージ/ゴールを掲載しておくのがポイント。”本質的に信じられる”(つまり”ちゃんとした”)事業体になることが目標なので、それを毎回思い出しながら進める感じです。

派手な動きはないけれど

結果的に、足りないところの調整や、基盤の整備が中心の1年だったので、いわゆる「PR的」な派手なことはしていません。見えるところだといくつかのイベントやツール、ウェブ上のチャネルを新たに始めたぐらい。でも、土を耕すことから取り掛かり、チームメンバーが耕しながら気づいた点を来期の耕作計画に入れて種を調達して……という回し方は、パブリックセクターのスピード感にあっているようです。チームも活性化してきたし、いまのところ堅調。きっと目標は2018年頃に叶うと思います。

ちなみに、わたしは新卒以来ほとんど一人担当で働いてきたので、チームにしっかり入って動くのはほぼ初めて。そのせいか(?)企画立案や制作ディレクションはできても、リソースマネジメントが苦手です。だから、2016年度は戦略チームでたくさんのことを学びました。特にマネージャーには、上記のシート運用のアイデアから、実施のための分業、予算組みまで、たくさん教えてもらいました。そして、チームメンバーの視点は、扱う対象領域に土地勘のないわたしにとってとっても良い勉強の機会。

総じて、人に恵まれた一年で、コミュニケーション職として新しい階段登れた実感が得られた一年でした。いやあ……転職時点から数えると2年弱のトンネルは長かったです。ここまですごく苦しかったです……光が見えて良かった(本音)

定義のない役割をつくりながら

と、いうことで。1年前に頭を抱えた「コミュニケーション・デザインとは何か」という問いに、具体的な解がひとつ、見えてきた気がしています。「言ってること、やってること、考えてることの差を埋める」ことで、信頼の基礎づくりを行う仕事。

わたしの次のチャレンジは、そういった動き方/考え方をもう少し体系だてて形にしていくこと、インハウスにコミュニケーターがいない場合はどんな手法があるのか検証してみることです。2017年もひきつづき、このコミュニケーション・デザイン領域の開拓に取り組んでいきたいと思います。

(真面目だ!)

[ Illustration by Atsushi Toyama ]

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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