そして、ぜんぶ、人になった。<br >(広報とコミュニケーション・デザインは違うのか)

そして、ぜんぶ、人になった。
(広報とコミュニケーション・デザインは違うのか)

日記 - 2016.1.5

*本記事はアーツカウンシル東京在職時に執筆していたMedium Magazine「ヤギに手紙を届ける」から転載しました。

「じゃあちょっと、今からみんなに広報とコミュニケーション・デザインの違いを説明して」

2016年始業日の本日、ボスによる新年初・無茶ぶりを受けました。

難しいなあ……と、頭を掻きながらその場ではしどろもどろ説明しましたが、いい機会なので、改めてわたしなりに整理したことを書いてみます。

(以下、独断で偏った書き方をします!ご容赦)

まず、「広報」という職業は「メディアリレーション」と「ブランド管理」を統括する仕事、というのが一般的な理解だと思います。マスコミ対応とか、CI・BIと言われる業務ですね。

一方で、「コミュニケーション・デザイン」も、メディアとブランドを扱うことは変わりないというのがわたしの考え方ですが、それは最後に書くとして。

少し昔話をします。

2007年、ヒヨヒヨの新人時代のことです。先輩に薦められて入会した歴史ある広報勉強会には「マスコミ」と「制作」の2つの分科会がありました。つまり、マスメディア対応(リリースとか記者会見とか)と広報ツール制作(ロゴ等のCI管理とかパンフレット制作とか)が広報の二大役割として(きっと開会当時に)定義されていたのです。

とても熱心でいいコミュニティだったのですが、わたし自身は、その勉強会を早々に退会してしまいました。今思えば、どちらかの手段に特化して成果を出すことに向いていなかったので、居場所がなかったんですね。

そして、困ったなあ、広報、向いてないなあ…と悩んだ末にたどり着いたのが「ステークホルダーリレーション」です。

事業の顧客も、従業員も、応援者も、ふらりと訪れた人も、周辺領域の人も、近隣住民も、企業の周囲を取り囲むすべてのステークホルダーと、良好な関係を結んで行こうという考え方。

伝播力の強いメディアから多くの人に届けるのではなく、周囲の50人ぐらいに深く共感してもらい、そこから人に知ってもらうという仕事に切り替えたのです。そのあたりの詳しい話は、2社目の就職先であるロフトワークのPR時代にスライドで解説しています(↓)

試行錯誤しながら5年。

気づけば、スタッフひとりひとりが情報を自ら発信し、クライアントまでもなぜだかPRに自主的に協力してくれるようになりました。どんな立場でも「心に残る瞬間」「自慢したくなる場」に出会ってしまったら、人は誰かに共有したくなるものです。結果的には、その活動のご縁からメディア取材もたくさんいただきました。

これは、とてもありがたい体験で、いつしかわたしの仕事は「広報活動」から「コミュニケーション・デザイン」と呼んでもらえるようになりました。

それは確かにインターネット時代独特のコミュニケーション活動だったのですが、ポイントは、テクノロジーの進化そのものではなく、それによってもたらされた大きな価値観の変化にありました。

つまり、「人」がメディアであり、人の集まる「コミュニティ」の空気こそがブランドであるという新しい感性です。

では、最初の問いに戻ります。広報とコミュニケーション・デザインの違いとは何か。

一般的な広報は、メディアリレーションとブランド管理を統括する職業です。そして、コミュニケーション・デザインもまた、人という「メディア」と関係を結び、人から発信してもらう活動であり、人が集まるコミュニティという「ブランド」をつくり、良き場として成長させていく活動なのです。つまり、根っこは同じで、対象の範囲が違う。と、いうのがわたしの仮説です。

人の気持ちを動かし、人のいる場を暖かくし、外部と内部の温度差を減らすためなら、手法は問わないのが、わたしなりのコミュニケーション・デザイン観です。予算をかけてハイクオリティの紹介動画をつくることもあれば、毎日元気な挨拶をする職場をつくることもコミュニケーション・デザイン。

話は長くなりましたが、さて。

2016年は、そんなコミュニケーション・デザインの仕事にふたたび挑むことになりました。転職するわけではありません。今の職場で新たに担当させてもらうことになりました。(今までの仕事と兼務で)

離れようにも、すぐに戻ってくる、コミュニケーション・デザインというテーマ。こうなったら、ちゃんと引き受けて、切磋琢磨していこうと思います。そしてこれからは、考えたことをいちいち言葉に残していくのが目標。

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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