ことばのクリッピングをしてみよう

ことばのクリッピングをしてみよう

日記 - 2016.12.1

*本記事はアーツカウンシル東京在職時に執筆していたMedium Magazine「ヤギに手紙を届ける」から転載しました。

先日、TARL 思考と技術と対話の学校・技術編で「アートプロジェクトの伝え方・残し方を考える」講座を担当しました。今回は、インハウス広報のロールプレイをしながら学ぶ「ことばと計画」がテーマ。

インハウス(組織・チーム内に所属している)広報は、伝えるべきネタを選定したり、事業の定型表現を決めたりと、重要な役目を担うもの。企画チームから上がってきた情報をそのままスルッと出すのではなく、きちんとその価値をヒアリングし、表現を皆で推敲しながら、打ち出し方を調整していくことが求められます。

…と、いうようなお題目から講座をはじめたのですが。

最近、「いいなあ!」「ピンときた!」と感じたことば、思い出せますか?

プレスリリース、サービス紹介文、ウェブのアバウトページ、チラシ、案内文書…世の中には様々な「伝えることば」が落ちています。

その中から、「心惹かれた、伝わることば」をクリッピングして、自分の糧にすることは、結構使える筋トレ方法だなと思っていまして、授業でもとりあげました。

受講生のクリッピング

受講生の「心惹かれたことば」を持ち寄って眺めてみるとなかなか面白かったです。「東京防災」のコピーの強さをあげた人、RCサクセションの歌詞から引用した展覧会名のトリッキーさに構造を見出した人、若手建築家のプレゼンで建築方法を解説する一文に美しさを感じた人、アップル社の有名なフレーズを改めて考察した人…色々でした。心惹かれることばは様々な場所に点在し、その裏側の思考を見つめることは、「伝える」トレーニングになります。やっぱり。

わたしのクリッピング

じゃあわたしはどんなものに惹かれたの? ということで、授業ではノートの一部も公開しました。

仲間を見つけるワーディング

シューレ大学のチラシから。「自分にのっぴきならないこと」「生き難さに穴を穿つ」という強い表現。「生き辛さ」「生き難さ」は最近よく見かけるのですが「穴を穿つ」は爽快な結びだなあと。映像作品募集のチラシでは、「あなたに応募してほしい」という締めがいいなあと思いました。「みなさんに」だと響かないですよね。共感する人に狙いを定めた、強いことばづかいに心惹かれました。

なぜユニークなのかが明確

東京・高尾山のTAKAO 599 MUSEUMのリーフレットから。東京にあってこんなにも自然豊かなのは「殺生禁断の思想」があったからという構成が説得力があって、スマートだなあと感じました。写真の町シバタの冊子では、普通の日常が写真として残っていることの価値がわかりやすい表現で記載されていて、それがプロジェクトのユニークさにつながっています。

なじみのある表現でわかりやすく

大分県別府市のBEPPU PROJECTのチラシから。こちらは「混浴温泉世界」など尖ったアートの企画で人気のNPOですが、今年から復数のアーティストによる芸術祭方式をやめ、1組のアーティストにフォーカスした企画を発信しています。「個展形式の芸術祭」とは、世界的に活躍する数十~数百のアーティストを呼び集める一般的な芸術祭の裏をかく表現で、すごくふつうのことばなのにパンチがある。別企画を説明する「登録型の市民文化祭」もわかりやすい。上手だなあといつも感激しています。

設計が美しい!

前にも記事で書いた、慶應SFCの加藤文俊教授の授業「爽やかな解散」。その解説リーフレットの文章構造が美しくて、線をひいて参考にしています。フィールドワークには必ず別れがつきもので、だとしたらその解散の設計までデザインする必要がある…といいう取り組み。一人称の景色から始まって、本題になって、具体になって、最後読む人(一般人)にも自分事にするような繋ぎ方が美しいです。こんな文章が書きたい…。

定義の違いに価値観が宿る

あと、わたしが所属する「東京アートポイント計画」の中のプロジェクトからも面白いものをふたつ。執筆しているのはそれぞれ違う企画者です。同じ「アート」を扱っていても、「アートはもともと技の意味」と大胆に言い切ってはじまるものもあれば(としまアートステーション構想)、「アートは多様な価値観を担保すると言われて久しいが」と定義することで異なる他者と過ごすための実験としてプログラム開催趣旨につなげるものも(TERATOTERA祭り)。知られたことばの定義からはじめることで、問題提起をしたり、見ている景色を更新するいい文章だなあと感じました。

…などなど、魅力的なことばについて書きはじめると止まりません。長くなってしまいましたが、色々な場面で色々なことばが働いていますね。

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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