「つくりかたのよくわからないもの」が得意な話

「つくりかたのよくわからないもの」が得意な話

日記 - 2023.2.8

「きてん企画室は何が得意なの?」と聞かれたら……

こんにちは。きてん企画室の中田です。

きてん企画室も設立3周年を迎え、企画事例ページも充実してきました。あらためて企画一覧をながめてみると、印刷物とか編集コンテンツが多い印象です。

……が、しかし、実は私自身、「ちゃんとした紙の本をビシッとつくるとか、プロフェッショナル同士で役割をきっちりと分けて期限通りに制作物を納品する」という仕事はそんなに得意じゃありません。

そんなんでいいのか、大丈夫か。じゃあそもそも何が得意なのよ! つっこみたくなると思うのですが、あえていうなら、「つくりかたのよくわからないもの、誰とどうやってそれゴールするのよ? みたいな謎のお題をこねくりまわしながら、なんとかつくること」が得意です。

なんじゃそりゃ、と自分でも思うんですが、ゼロから新テーマのメディアを立ち上げるとか、観光牧場のスタッフの気持ちを揃えるとか、パンデミックの最中に明るい気分になってもらうとか、今までも「謎のお題を抱えた、つくりかたのよくわからないもの」を手掛けてきました。結果的に印刷物だったり、編集コンテンツだったりはするのですが、それはあくまで結果です。

今日はそんな仕事の最新事例、ちょっと変わった冊子制作の話を振り返ってみます。

千葉市美術館の報告書で「新聞パロディ」をやってみた

千葉市美術館のアーティストプロジェクト「つくりかけラボ06|岩沢兄弟 キメラ遊物園」の報告書を先月発行しました。クレジット上は、編集執筆担当です。

千葉市美術館「つくりかけラボ06|岩沢兄弟 キメラ遊物園」報告書。B5サイズ・カラー・8ページの薄い冊子です。

ちょっとマニアックな話になりますが、B5・フルカラー・8ページで構成されたアート系の読み物といえば、かつて資生堂がアーティストのポートレート作成支援事業で展開していたり、αMプロジェクトで岡部あおみさんがキュレーターだった頃に発行していたりしたリーフレットと同じ判型です。

ミニマムだけど「その作品/プロジェクトが確かにここにあった」と表すための、意志が込められたフォーマットです。美術館の場合、展覧会企画はカタログとして記録が残るのですが、ワークショップやプロジェクトといった小規模企画(多くの場合は「教育普及」部門が手掛けるプログラム)は形に残らないまま終わることが多いです。

ところが千葉市美術館では、「つくりかけラボ」というアーティストプロジェクトにおいて、会期が終わるごとにこのB5サイズの小冊子を発行しているのです。これは静かに素晴らしいとりくみ。美術館にとっても、参加したアーティストにとってもその後の資産になります。(このアイデアと事業設計は、シリーズを立ち上げた元・千葉市美術館学芸員/現・水戸芸術館学芸員の畑井恵さんによるもの)。

また、フォーマットは揃っているものの、冊子の制作チームが毎回異なるのもユニークなところ。今回は長らく「岩沢兄弟」の広報面での伴走をしてきた、きてん企画室が企画制作を担当することに。

そして生まれたのが、「外見は報告書、中身は新聞」という不思議な冊子です。

めくると新聞!

企画過程で考えたこと

そもそも岩沢兄弟は、2021年以前は基本的にデザイナーとしての仕事がメインでした。

アーティストプロジェクトに作家として参加したといっても、ほかの美術家と同じように作品紹介をするのも、ワークショップが得意なクリエイターのように表現するのもしっくりきません。また決しておとなしいタイプのデザイナーでもなく、遊びがあって、アクが強くて、ちょっと不思議なところが最大の魅力。

美術館の報告書として成立させつつ、彼ららしいクセの強さや遊びを入れ込んで、なおかつ、ちゃんと爪痕を残す(!)にはどうしたらいいだろう?

と、悩んでいたときに、デザイナーの美山有さんが提案してくれたのが「外見は大人しく報告書。中身は新聞のガチパロディにして、岩沢さんらしくズラしましょ!」というアイデアでした。

その場で美術館にある新聞をあつめて、縮小コピーをとってみて、B4一面とした時の構成をがーっと組んで、仕上がったのが本書です。

パロディは完璧にやらないとスベる問題

「新聞パロディ」は手法としてはよくありますし、シンプルだから一見簡単そうです。

だからこそ、デザインも中身も半端だとスベるので、美山さんがきっちり新聞要素を洗い出してクオリティの高い「新聞らしい見た目と構成」を再現し、しかも紙面にぴったり収まる文字数を割り出して厳しく指定してくれました。これがとてもよかったです。

レイアウトを組みながら、考えられたコンテンツのボリュームや流れに合わせ、私はがんがんネタを考え、記事を執筆しました。(普段だったらライターさんに依頼するところなのですが、こういうつくりかたではなかなかアウトソーシングがしにくいので珍しく自分で書いています。)

また文体も悩ましく、完全に新聞記事風にすると報告書としての時制がおかしくなるし、遊びすぎても記録物として機能しません。そのあたり、書き方のバランスも丁寧に考えました。

新聞らしさはデザインだけでなく、見出しや文章のトーンにも宿る。

「重み」と「深み」を添える対談企画も

そしてパロディの面とは別に、もう一つ工夫したのは、杉原環樹さんに執筆いただいた、アーツカウンシル東京・森司さんと岩沢兄弟の対談企画です。

森司さん(左)と岩沢兄弟(右側二人)。思わぬ辛口講評に、現場で私はハラハラしました(笑)[撮影:ただ(ゆかい)]

今回レポートしている「キメラ遊物園」は、岩沢兄弟にとってはチャレンジと苦悩の連続としかいいようのないプロジェクトでした。表面的には軽々と楽しい企画をしていたようで「美術館でつくりかけ続けるってなんだ?」「アーティストではない自分たちにできる表現とは?」という悩みを抱えながらの創作活動。

その試行錯誤こそが、デザインとアートをまたぐときの思わぬ言語や磁力の違いで面白いところです。この「重み」と「深み」が報告書にはあってほしいと考えました。そういうときに重要なのは第三者の視点です。

そこでご登場いただいたのが、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団 )でアートプロジェクト関連事業のディレクターを長年務めている森司さんです。

森さんは、現代美術館の主任学芸員から転身し、まちなかで展開する「アートプロジェクト」という分野を切り開いてきた方。美術館とそれ以外での企画の違い、アーティストの特性を知り尽くしたプロフェッショナルです。岩沢兄弟をアートの世界に呼び寄せた最初の企画者でもあり、彼らの活動を「ただのおもしろいデザイナー」以上に捉えて解説してくださる適任者だと考えました。

結果、現場を見に来た森さんの切っ先鋭いコメントで、岩沢兄弟の悩みはより深まるのですが、その煩悶もあって、その次の瀬戸内国際芸術祭の出品では伸び伸びできたとのこと。それもまた嬉しい出来事だなぁと思います。

会場をながめながら話しているところ。[撮影:ただ(ゆかい)]

印刷物は、時間もお金もたくさんかけて、紙や水という資源も使ってつくるものなので、せっかくならストレートな「伝える」「残す」よりもう少し踏み込み、つくることで生まれる発見や刺激があって欲しいですよね。何かをつくることは、考えたり振り返ったりするよい機会だと私は思います。

報告書の3面にしっかり対談も掲載しました。話をうけて岩沢兄弟による「振り返り」も添えているのがポイントです。

”謎のお題を抱えた、つくりかたのよくわからないもの”

ということで今回も、「こんなことが起きてほしいな」からはじまって思わぬ完成品が生まれました。岩沢さん達の悩みながらも楽しくつくる力のおかげだし、素晴らしいデザイナー、フォトグラファー、ライター、そして理解ある美術館の皆さんのおかげです。楽しかったです。ありがとうございました!

PDF版はこちらでご覧いただけます。印刷版は近々ミュージアムショップに登場予定とのこと。ぜひご覧ください。

引き続ききてん企画室では、「謎のお題を抱えた、つくりかたのよくわからないもの」を手掛けていきたいと思っています。

なので、「きてん企画室に仕事を頼みたいなあ」と思っている奇特な方は、完成形や納期がきまった制作物案件よりも、「どうしたらいいかわからないけど一緒に悩んでほしいお題」を持ち込んでいただけるとイキイキと担当させていただきます。(お仕事依頼はこちらで受け付けています)

今年はそんな仕事をどんどんやっていきたいと考えている次第です。ではまた。

中田一会 (なかた・かずえ)

Text by

中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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