広報の現場でおきがちな「困った!」。もしかしたら解決に必要なのは「編集力」かもしれません。
「広報言葉のしあんラボ」は、広報と編集の間でうろうろ仕事をしている、きてん企画室・中田一会が“思案”しながら“試案”をだしてみる研究コラムシリーズです。実際に寄せられた相談内容をもとに、こうかな? ああかな? と“しあん”してみます。
第1回は、いわさわたかしさん(岩沢兄弟・よろずディレクション担当)のお悩みから。文章を書くのが苦手、言いたいことがあるのに伝わるように書けない。そんな人も多いのではないでしょうか。
「寄稿依頼を受けたので文章を書いてみたんですが、なんか高校生の読書感想文みたいで……ツッコミをください!」と連絡をくれたのは、クリエイターユニット「岩沢兄弟」のいわさわたかしさん*。
*きてん企画室では、岩沢兄弟の情報発信に伴走して3年になります。岩沢さん達は独特のアイデアとアプローチで家具や空間づくりを手掛けるユニークなクリエイター。考え方やプロセスがおもしろいので、コンテンツをつくるときはまずご自身で書いていただき、その後、きてん企画室で編集やブラッシュアップのお手伝いをしています。
「過去に担当したプロジェクト(「ROOM302」における「STUDIO302」構築プロジェクト)について、エピソード、思い出、ご自身の活動への影響や変化/あなたにとって「ROOM302」はどういった場であったか、期待していたことなどなどを書いてほしい」という寄稿依頼があったそうです。
最初にたかしさんが書いたのはこんな文章でした。
情報発信のお手伝いをしていて「文章に悩んでいるので見てほしい」と言われたとき、その「悩み」の原因はだいたいふたつに分かれます。
2の場合は本当に難しく、編集というより構想に立ち戻って話し合う必要があります。でも今回は嬉しいことに1です。言いたいことはしっかりあるので、整理をすればぐっとよくなるはず!
ということで私はまず、文章の要素整理から着手しました。たかしさんの文章にマーカーをひきながら、言いたいことの色分けをしていきます。
この時点で順番は入れ替えていません。整理すると「前提→工夫1、2、3→まとめ」というシンプルな流れだとわかりました。こういう文章の流れを「構成」と呼びます。今回の場合は、この構成がもっとはっきりするように整理できるとよさそうです。
また、事情や背景を知らない人への補足情報も足りないようです。そこで加筆修正をさせてもらい、こんなかたちに編集しました。
前段の背景含めて情報を厚くし、想定読者に不要な細かすぎる描写はカット。ポイントになる言葉は「」でくくるなどの調整をしています。また、かなりベタな手法なのですが、「3つのポイント」と先出しして、3つに分けて説明しています。
広報文において大事なのは「うつくしさ」よりも「伝わりやすさ」。「守破離」でいったら「守」が大事。文章の型はどんどん使っていきましょう。
それにしても、たかしさんが心配していた「高校生の読書感想文みたいな感じ」とはどこから来ているのでしょうか。こういうことかな? と気づいたところをまとめてみました。
上記のポイントを改善すると、しゅっとした“大人っぽい”文章になります。
以上、今回の回答でした。
繰り返しになるのですが、広報において「言いたいこと」は、文章の旨さよりずっとずっと大切なことです。現場から生まれた、生の言葉ほど大事な素材はありません。
応援してくれる人を増やしたいとき、テクニックを駆使したプロの文章よりも、素朴に実直に積み上げた文章のほうが“届く”ことはよくあります。さらにそのメッセージにしっかりとした裏付けがあり、論理的に考えられていれば完璧です。
だから、岩沢兄弟のお仕事はいつも楽しいです。たかしさん、事例提供にご協力いただき、ありがとうございました! (実際に原稿が掲載された冊子はこちらのウェブページからお読みいただけます)
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“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。