その広報紙からはいい匂いがする

その広報紙からはいい匂いがする

日記 - 2020.2.24

いい匂いがする。行かなきゃ。気になる。

先週金曜、ちょっと迷ったけど小さな旅に出た。

「ポットラック新聞」のワークショップへ

行き先は、愛知県名古屋市港区の「港まちポットラックビル」。

港まちづくり協議会が運営している拠点で、まちと人に関わるイベントや、デザインにまつわるユニークな企画、現代美術の展覧会などを開催している場所だ。数年前、まち全体をつかったアートイベントを開催していたときに、一度だけお邪魔したことがある。

という程度のご縁なのだけれど、港まちポットラックビルの企画はちょこちょこ気になっていた。それは「ポットラック新聞」をよく目にしていたから。協議会が発行する広報紙で、他の似たようなメディアとはちょっと雰囲気が違うというか「いい匂い」がする不思議な新聞だ。

企画、構成、デザイン、言葉のすみずみまで気がきいていて、奇抜なことをしているわけではないけど、他にはない切り口がある。読み物としてほどよく軽く、深いところは深く、受け取って楽しいまちのフリーペーパーだ。

「ポットラック新聞」
年3回発行の「ポットラック新聞(タブロイド版)」(ウェブサイトで読めます)

職業柄、いい匂いのするメディアを見つけると、ついクレジットを見てしまう。編集には、関西で活躍する編集チーム「Re:S(りす)」の竹内厚さんのお名前があって、どんな人だろうとずっと気になっていた。

そしてこの2月にフリーペーパー展と竹内さんのワークショップがあるという。これは……行くしかない!と、向かったのだった。

街ブラして「かわら版」を4時間でつくる!

「え、うそ、本当に?」「なんてスパルタ!」

ワークショップがはじまって数分、初対面の人と顔を見合わせて笑った。そこに居合わせた全員がびっくりしていたと思う。だってその日に、取材〜編集会議〜執筆〜レイアウトまでやって1枚のフリーペーパーをつくるというのだ。妙に長いワークショップだな……とは思っていたけど、まさかつくりきるとは。

竹内さんやポットラックチームによるレクチャーもそこそこに、初対面の人ばかり8人前後のチームに分かれ、「ポットラック新聞 かわら版」のつくりかたをお手本に取り組むことになった。

「ポットラック新聞」には、年3回発行の「タブロイド版」(カラー/8ページ/全国に配布)と毎月発行の「かわら版」(モノクロ/1枚/みなとまちで限定配布)があって、今回はかわら版(右)をつくってみるワーク。
「ポットラック新聞」には、年3回発行の「タブロイド版」(カラー/8ページ/全国に配布)と毎月発行の「かわら版」(モノクロ/1枚/みなとまちで限定配布)があって、今回はかわら版(右)をつくってみるワーク。
「みなとまちのランチ」がお題だったので、ひとまずチームでランチへ。わたしたちは純喫茶で食事をとることに。みなとまちは喫茶店だらけ!
「みなとまちのランチ」がお題だったので、ひとまずチームでランチへ。わたしたちは純喫茶で食事をとることに。みなとまちは喫茶店だらけ!
わたし以外のメンバーはほとんど名古屋近郊在住。喫茶店には必ず鉄板プレートのメニューがあるとか、ボトルキープ的なコーヒーチケット制度があるとか、この辺りは500円でランチが食べられるとか色々と教わる。
わたし以外のメンバーはほとんど名古屋近郊在住。喫茶店には必ず鉄板プレートのメニューがあるとか、ボトルキープ的なコーヒーチケット制度があるとか、この辺りは500円でランチが食べられるとか色々と教わる。
ランチから戻ってきて30分で、ひとまずの企画とレイアウトを組む。編集部員それぞれの背景を聞いて、「初体験」を書く人と「いつものまち」について書く人、イラストを描く人に割り振り、文字数を決めて執筆。
ランチから戻ってきて30分で、ひとまずの企画とレイアウトを組む。編集部員それぞれの背景を聞いて、「初体験」を書く人と「いつものまち」について書く人、イラストを描く人に割り振り、文字数を決めて執筆。
「今度は30分で原稿執筆? わ〜大変!」と言いつつも、和気あいあいと進む。みなとまちに住んで四十余年だという人、ポットラック新聞のライターさん(助っ人!)、近隣企業で社内報をつくっている人もメンバー。
「今度は30分で原稿執筆? わ〜大変!」と言いつつも、和気あいあいと進む。みなとまちに住んで四十余年だという人、ポットラック新聞のライターさん(助っ人!)、近隣企業で社内報をつくっている人もメンバー。
小学5年生のメンバーも。ふだんから地域の文化財団のフリーペーパーでボランティアレポーターをしているそうで、「文字数オーバーしちゃったんで、ひらがなは漢字にして詰めてください」と指定されたときには感激。できる、できる編集部員ばかりだぞ……。
小学5年生のメンバーも。ふだんから地域の文化財団のフリーペーパーでボランティアレポーターをしているそうで、「文字数オーバーしちゃったんで、ひらがなは漢字にして詰めてください」と指定されたときには感激。できる、できる編集部員ばかりだぞ……。
中田はたまたまPCを持っていたので(=仕事を抱えたまま旅に出たので)、みんなの原稿を集約しつつ、データ化しつつ、校正する作業を担当。このあたりで「あれ、プライベートなのに、いつもの仕事してない?」ということに気づく。
中田はたまたまPCを持っていたので(=仕事を抱えたまま旅に出たので)、みんなの原稿を集約しつつ、データ化しつつ、校正する作業を担当。このあたりで「あれ、プライベートなのに、いつもの仕事してない?」ということに気づく。
「カットだ! カットが必要だ! 」と、その場でみんなでイラスト素材も描いた。イラストは何を切り取るのかがポイント。
「カットだ! カットが必要だ! 」と、その場でみんなでイラスト素材も描いた。イラストは何を切り取るのかがポイント。
とにかく時間がないので、他チームも頭を抱えながら、わーわーと作業を進めていた。社内報をつくりたい人、給食だよりをつくりたい人、本職の編集者、ライター、近所の人など色々なメンバーがいるところが面白い。
とにかく時間がないので、他チームも頭を抱えながら、わーわーと作業を進めていた。社内報をつくりたい人、給食だよりをつくりたい人、本職の編集者、ライター、近所の人など色々なメンバーがいるところが面白い。
開始から数時間……ポットラックスタッフの方が紙面を組んでくれて、無事に完成! シンプルだけれど、その日の体験をその場で企画にし、言葉にし、新聞にするという体験は感動的。
開始から数時間……ポットラックスタッフの方が紙面を組んでくれて、無事に完成! シンプルだけれど、その日の体験をその場で企画にし、言葉にし、新聞にするという体験は感動的。
達成感いっぱいの記念写真。それぞれの得意や発見を持ち寄って、ひとつの紙面にまとめていくことは、コミュニケーションとしても面白い。「かわら版」がまちづくりのプログラムとして進められているのも納得。
達成感いっぱいの記念写真。それぞれの得意や発見を持ち寄って、ひとつの紙面にまとめていくことは、コミュニケーションとしても面白い。「かわら版」がまちづくりのプログラムとして進められているのも納得。

いい匂いは、編集力に宿る

と、ワークショップの興奮レポートはここまでにしておいて。(いつも開催側なので参加は楽しいばかりで最高。ちょっとはしゃぎすぎた……)

かわら版ワークの前後に、Re:S竹内厚さんとポットラック新聞編集チームによるレクチャーや公開編集会議があって、興味深いお話もたくさん聞けた。

「ポットラック新聞 かわら版」公開編集会議中
「ポットラック新聞 かわら版」公開編集会議中

トークの中に出てきたこともあるし、そのあとの懇親会で伺ったこと、帰り道にひとり悶々と考えたことも混ざっているけれど、手元にはこんなメモが残っている。

● 新聞と日記は編集の技としてつかいやすい形式
● 面白くするチャンスは3回ある(ネタ探し、編集会議、執筆)
● ビジュアルが強い時代において、ビジュアルに頼らずみんなが書ける形式を探す
● 「タブロイド版」(全国向け)と「かわら版」(町内限定)があることで遠近感が出る
● 「かわら版」では「取材できなかった」ことすら記事にしている
● まちのフリーペーパーはすぐに内容が似てきてつまらなくなる。見せ方の工夫が大切
● 入れなきゃいけないコンテンツは、収まりのいい枠をつくることで可能になる
● 重さ軽さのバランスをとる
● 発信者が伝えたいことを前面に出したところで読んでもらえない

全体の方針を決めることも、つくりかたを決めることも、NGラインを見定めることも「編集」だ。進行管理や原稿管理だけが編集ではない。

構造をつくるとか、構成を整えるという所作は、なかなか表に出てこないけれど、編集が効いているか否かはちゃんと紙面に現れると思う。読者をみて球が投げられている、ちゃんとキャッチボールになるようにつくられているーーそれがきっと「いい匂い」の正体だ。

「ポットラック新聞 タブロイド版」のバックナンバー全号を手にして、ああ、やっぱりすごいなぁと思いながら帰途についた。いい仕事をみると、背筋が伸びる。行ってよかった!

「ポットラック新聞 タブロイド版」編集会議についての展示(こういう展示で見せるところがまた編集的。上手だなあ!)。「いろんな人といろんな街のフリーペーパー展」は3月14日まで開催中。
「ポットラック新聞 タブロイド版」編集会議についての展示(こういう展示で見せるところがまた編集的。上手だなあ!)。「いろんな人といろんな街のフリーペーパー展」は3月14日まで開催中。

*追記&メモ:ポットラック新聞は、3年前のフリーペーパー展から始まっていて、今回はその振り返り的な企画とのこと。現在、タブロイド版は年3回・全国に向けて1万2000部発行、かわら版は毎月町内会や回覧板で町内全戸配布している。届け方の設計も上手。

中田一会 (なかた・かずえ)

Text by

中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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