「これはまずいかもしれない、良くない予兆かもしれない」――そう察したときにパッと動くのもまた、広報担当の大切な役割ではないでしょうか。
インハウスの広報担当というと、「組織内から情報を発信し、メッセージを届ける職種」といった印象で捉えられがちですが、実際は「矢面に立ち、組織の評判やステークホルダーとの関係に目配せする役割」です。
実際、わたし自身も組織内の広報担当だった頃は、業界を俯瞰し専門知識も豊かなメディア記者や編集者の方から、厳しくも優しいフィードバックを受けとってきました。SNS運営にあたっては、常時エゴサーチをかけ自社やメンバーに対する評価を眺めるようにしていましたし、経営陣と従業員それぞれの事情や思惑も聞いてきました。クライアントやパートナーからも気づいたことがあれば連絡をいただきました。
そういうやりとりの中には、たくさんの嬉しいコメントや幸せなコミュニケーションもありましたが、当然ながらヒヤリハットというか冷や汗がダラダラでるような注意喚起が含まれるものもあって。
ネガティブな兆候を見つけたときには、誰にどう報告して、どう対処するか。その初動とフォローをどう設計するかも自分の仕事だと考えていたのでした。
誰にそうしろと言われたわけでもないのですが、あらゆる関係者と良好な関係を持続するというPublic Relationの基本にのっとれば、それが業務でないはずがない……と考えていたからです。
なんて、偉そうに書いてしまいましたが。
過去に3つの組織でコミュニケーションにまつわる役割を担当してきたので、ときどき昔の同僚に「あなたが担当していた頃、情報の風通しがよかったよね」とか、「チームの盛り上げが上手だったよね」などと言ってもらえることがあります。とても嬉しい反面、「盛り上げてただけ」だと思われていると寂しく感じることも。それはなぜかなと振り返ってみたのでした。
実際は、ポジティブに盛り上げることと、ネガティブな状況を改善することの両方に奔走してきました。SNSで怒っている関係者がいればボスからフォローを入れてもらい、事業について良からぬ反応があれば担当者と話し合い、誤解が広がりそうになったら解説コンテンツをつくりました。
そういう面倒なことをやっているから仕事の手は遅い方でしたが、バランス取りは上手な方だったのではと自負しています。そしてそういう面倒な役割が大好きなので、今も昔も数人〜数十人規模の組織で働くのが心地良いのかなと思います。
そんな役割を“炭鉱のカナリア”に喩えるのは格好つけすぎかもしれません。でも、今も新規事業広報に関わるなかでその必要性を確信しています。
「コミュニケーションに関わるチームはカナリアも仕事なので。ちょっとでも気になることがあったら共有して進めていきましょう」と、今日とある会議で口からこぼれ、はっとしました。
昔は広報担当である自分ひとりがカナリアだと思っていましたが、今はあらゆる接点をつくるプロジェクトチーム全体がカナリアに見える。何かを察知したらひとりで不安がるのではなく、皆で共有すること。不安な兆しを良い機会に変換すること。そういう仕組み……と、いうよりもチームの心持ちをつくれたら、よりよい事業につながるんじゃないかなとか、それは自分が得意なことかも。
新しい事業の立ち上げに関わると、フレッシュな頃のあれこれが思い出されていいなあ。がんばろう。
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[ Illustration by Atsushi Toyama ]
Text by
“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。