広報のジレンマについて

広報のジレンマについて

日記 - 2025.6.27

昨日2025年6月26日、「ちばげい」こと千葉国際芸術祭2025のメディア向け発表会を開催しました。以前も書きましたが、私は昨年からこの新しいトリエンナーレの広報コミュニケケーションディレクターを務めています。

発表会では、神谷市長、中村総合ディレクター、そして32組の参加アーティストのなかからアレクセイ・クルプニクさん、加藤翼さん、栗原良彰さん、サイモン・ウェッテムさん、鈴木のぞみさん、諏訪部佐代子さんにも登壇いただき、9月19日からはじまる「集中展示・発表期間」に向けて具体的な内容をお届けしました。

2025年6月26日千葉国際芸術祭2025 メディア発表会の様子

限られた時間でしたが、登壇者をはじめ、たくさんの方にご協力いただいて良い会になったのではと思っています。反省はいくつか残るもののちゃんとチームで動けているのも今年の目標どおりです。

そんな感じで、ちばげいに関わることによって私自身は久しぶりにがっつり「広報職」として働き、その矜持とジレンマの間でゆらゆらしています。今日はちょっとそんな話をお届けします。

アートプロジェクトをどう伝える?

今回リニューアルした新ウェブサイトは「参加型アートプロジェクトの集合体」という、ちばげいの独特な建付けを表現するため、情報設計にかなりこだわっています。

千葉国際芸術祭2025新ウェブサイト

プロジェクトプロセスが残しやすい仕組み、「関わりしろ」になるポイントが「イベント」的に見えるデザインもあえての設計。

なのでちょっとだけポップで、ちょこちょこ遊びがあって、でも基本はニュートラルで、なるべく迷わせない情報媒体であることが第一のつくりになっています。良いものができたのではと自負しています。(デザイン・実装は千葉市が誇るクリエイティブチーム・KARAPPOさんです!)

まだまだ英語ページは準備中ですし、アクセシビリティも万全とはいいきれませんが、調整しながら夏には整うはず。ここまで一週間、缶詰合宿状態で働いて、情報をぎゅっと詰めたので、まずは日本語サイトから楽しんでいただければ嬉しいです。

日常の大切な時間のなかで「参加」してもらうこと

そして……ここからが大事なところなのですが。

「市民参加」と謳うのは簡単なことですが(ちばげいでもしっかり謳っていますが)、日常に生きる一人ひとりは私自身も含め、「市民」という自覚ではなく、「忙しい毎日を過ごすただの私」として生きています。

24時間365日の限られた時間で、「やろう」「行こう」「関わろう」とアクションに移すこと自体、本来はとっても大変なことです。

「アート」の中からちばげいへの参加を選んでもらうのではなく、日常のあらゆるたくさんの大切な用事や時間や関係の中からちばげいに参加してもらう。それが広報担当のミッションです。

そのためにはどのぐらいの間口の広さをもって「ようこそ」と言えばいいのか。試行錯誤しながらも、千葉市に馴染みのある自分や仲間の感覚を信じて、言葉やデザインや伝え方を検討するようにしています。

「わかりやすさ」と広報のジレンマ

……が、そのような選択は、必ずしもアーティストやアートプロジェクトが指向するもの、目指したい世界と重なるとは限りません。

いや、むしろ、わかりやすくしたくなくてやっていることが、わかりやすくなってしまう危機に幾度となくさらしてしまう可能性をはらんでいます。

それでも、それでも。「このぐらいの箱に詰められるサイズにさせてもらって届けたいんです」と言わなくてはいけない。活動を編集するということは残酷な仕事ですし、そもそもがマッチョな所作だと思います。

ささやかでやわらいことを大切にしたいからこの現場に関わっているのに、手つきは大鉈を振るうそれでなくてはならない。

広報はいつもそのジレンマに胃を痛くする部門なんだよなあ……と久しぶりにがっつり広報責任者の仕事をしながら感じています。それでも、それでも。

指からこぼれるものがあるかわりに、小さな手のひらに何をすくいあげようとしているのか。その選択に対して自覚的に一歩一歩進めていきたいです。がんばります。

(……というのはバックヤードの悩みなので、外側からのぞく皆さんはぜひ楽しく気軽にのぞいていただけたらと思います! )

[写真提供:千葉国際芸術祭2025/撮影:ただ(ゆかい)]

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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