親切心は4割で

親切心は4割で

日記 - 2020.4.13

ここのところ、きてん企画室のウェブリニューアル作業を進めています。

あちこちのサービス上で書き散らしてきた文章をどう集約し、アーカイブしていくか。手掛けてきた制作物や企画をどんな切り口で見せるか。何より「はじめまして」の人にどんな自己紹介をするか。……これが意外と難しい。

日頃は、組織や個人のそういった悩みを聞き、ともに頭と手を動かすのが仕事ですが、自社のこととなるとなかなかうまくいきません。(「占い師が自分のことは占えないってやつですね〜」とひとに言われて、合点がいくやら情けなくなるやらでした)。

自社のAbout文が書けない問題

特にスランプに陥ったのが、「Aboutページ」の文章。きてん企画室がどんな事務所で、何をしていて、なぜそうするのかを説明するコーナーです。これがとにかく難しかった。あまりに悩みすぎて文章が、7パターンぐらいできてしまい、法人が人格分裂でも起こしそうな事態になりました。(つまり、いくらでも文は書けるんだけどピンと来ないという状態)。

そこで原稿を書いては、“心の同僚”と呼んでいるKさんに送って読んでもらいました(※Kさんは広報職や執筆職ではない人。そこが大事)。そのたび、「なんかいつもの一会さんらしくないですね」「もっとあの話をしてみては?」「誰に向かって投げたいんですかね? ボールを!」などと、普段は自分がひとに言っているようなことばをバシバシ浴びました。悶絶。

もうだめだ、HPが全然足りない、MPはそもそも尽きている……と、心が折れかけたわたし。そんなとき、Kさんのぽそっと放った一言にヒントを見つけました。「それにしても◎◎◎のウェブサイトみてみたんですけど、やはりというかなんというか、全然説明してないんですね!笑」。

”親切心”が邪魔だとわかった

Kさんがいう、◎◎◎とは、わたしが「心底憧れている」と前々から言って憚らない、とある小さな組織です。(別に伏せる必要はないんですが、恥ずかしいので秘密!)

他の憧れ組織もそうなんですが、自分がいいなぁと思う活動体は、Kさんが気づいたとおり、ちょっとつっけんどんなぐらい「説明が足りない」チームばかりです。

でも、手掛けている仕事は面白くて本質的だし、そこで働く人たちの創造する力がすごい。地理的にも恵まれているとは決していえないのに、いいものが集まってくる人たちなんです。新しいことをしているから言葉にしづらい。でもだからってわかりやすい言葉にすることを良しとしない。言葉が活動に追いつけないぐらいまでぶっちぎって走り抜ける。……そんなタイプの組織です。

かっこいい……。しびれる……。

わかりやすいことばをボールとして投げることは、一見親切な態度のように思えます。でも、投げる先を見てみると、必要なのはわかりやすさとは限りません。「親切っぽい態度」は、人に嫌われたくないという自分の不安を拭ってくれるけど、それが本当に考えていることや、届けたい人と離れていたら意味がありません。ちゃんとキャッチボールしないと。

「タテマエ的な親切心を捨ててみようか」

そう覚悟を決めたら、急に筆が進みました。

手紙を書くように

公式サイトのAbout文は、事業に関わってくれる(かもしれない)人に向けた手紙のようなもの。

何を書くかもそうですが、どんな手触りのことばを使うか、どのぐらい謎を残すかもポイント。関わる人全員が必ず読んでくれているとは限らないけれど、「言っていること」が「やっていること」「考えていること」と並べて違和感がないことが一番大事だなと改めて思いました。

仕上がった最終版を送ったら、Kさんからは「素敵! とっても一会さんらしいですね」とコメントをもらえて一安心。決して万人受けする内容ではないのだけど、自分がこの仕事をどう考えていて、それが世界とどうつながっていて、どんな人とどんな態度で取り組みたいのかをちゃんと表せた気がします。

と、いっても、結局、親切心(? そもそもこの表現で合っているかな…)は捨てきれなかったんですが。でも4割ぐらいに抑えて書けたのでよかったかな。どうもわたしの弱点はそういうところにあるようなので、今後も「親切4割」を心がけていきたいと思います。

どんな文章で、どんなウェブサイトになるかはオープンしてからのお楽しみ。6月ぐらいの公開を目指しています!

*追伸:ちなみにこういうことを書くと誰かに叱られそうですが、個人的にはいわゆる「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」をそのまま提示するという方法は避けるべきだと考えています。もちろん、組織がMVVを明確にしておくことは大事だけど、素材を生のまま出して「食べて!」というような乱暴さを感じます。ことばがことばのまま伝わることはないという前提に立った上で、相手を見てその伝え方(料理の方法)を変えていくことが大事ではないかなと。というような面倒なことを考えていると、ブーメランが喉元をかすめ、自社のAbout文すら書けなくなるわけです。がんばろう、わたし。そしてKさんに感謝!

[ Illustration by Atsushi Toyama ]

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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