こんにちは。代表の中田一会です。
2025年秋、きてん企画室は、企業として小さくない変化を迎えました。具体的には、社名・経営体制・事業内容の変更です。News(おしらせ)でも発表しましたが、個人として活動してきた会社なので、「お手紙」のような形で背景や意図をご説明しようと思います。
少し長くなりますが、もしよろしければお付き合いください。
「きてん企画室」のはじまりは2018年4月です。
企業や公益財団で勤務し、広報・企画・編集等の仕事をしてきた私・中田が独立する際、屋号としてつけた名称が「きてん企画室」でした。個人として前に立つよりも、「コンセプト=約束事」を掲げ、それを大切に守る活動体になりたくて名前をつけました。
きてん企画室の約束事は、「機転をきかせて、起点をつくる」こと。
工夫や知恵に満ちた企画(=機転)を通して、活動体が伸び伸びとやりたいことをやれる「はじまり(=起点)」をつくる仕事がしたい。
大きな組織や情報発信が巧みな人ばかりが“強く”て“勝つ”世界ではなく、不器用でも小さくても悩みが多くても本当にやりたいことを真っ当な方法で手掛けていく人たちが社会を形成していく一助となりたい。
そんな願いを「きてん」という名前に込めています。それは、組織に所属する広報PR・コンテンツディレクション担当として約10年間、猛烈に働いてきた自分自身の反省から導かれた「どうしても叶えたいこと」でもありました。
独立後は、規模感・スピード感・使う言葉・職業倫理……一つひとつを丁寧に選択したかったので、起業ではなく、個人事業主の道を選びました。
2019年12月、受注の都合で株式会社化しましたが、その際もやはり「ひとり会社」であることにこだわりました。もちろん、経営パートナーや一緒に働いてくれるスタッフがいれば心強いでしょう。ただし、こだわりが強い自分としては何事も一人で選択し、一人で責任がとれる規模を重視したかったのです。
とはいえ、創業時から気づいていました。やりたいことを叶えるためには、広報PR領域だけではまったく足らない……ということは。当たり前ですが、そもそも広報PRなどの「伝える」活動だけが、世の中の活動体を支えるわけではありません。
経理・会計・財務といったお金を扱う知見、人事・労務といった雇用に関わる知見、プロジェクトマネジメントやファシリテーションなどの知見、環境や組織運営に関する総務的な知見……「バックオフィス系」の仕事に絞ってみても、必要な知見が山ほどあります。
総合サービスを目指すわけではないとしても、活動体を支える多様な領域を内包しなくては「きてん」の約束が叶わないのではないか。だとしたら、小さなひとり会社で踏ん張るのではなく、もう少し事業拡大してもいいのではないか。その勇気を持つべきではないか。
とはいえ規模がおおきい物事は得意ではないし、目配せが効かなくなるのも怖いし、何より他者の生活や人生まで抱える自信がない……。創業以来、そんなことをもやもやと考えてきました。
……そして創業から8年目となる今年、ついに腹を決めたのです。
このたび五藤真さんを経営メンバーとして迎え、新たな事業展開をしていくことに決めました。
五藤さんには、私と同じく「代表取締役」というポジションで、なおかつ「社長」という役を背負ってもらいます。
つまり、共同代表体制に変更し、経営トップは五藤さんに譲ることに決めました。こんな無茶振りを受けてくれた五藤さんもすごいし、頼んだ自分も大胆だなとは思います。
五藤さんの専門であり得意なことは「お金」と「経営」と「事務」です。
学生時代、一橋大学で社会学を学んでいた五藤さんは、演劇と出会いました。その後、紆余曲折あって演劇関係の団体やアートフェスティバル事務局、アートプロジェクト事務局の「経理」を担う会計フリーランスの仕事をはじめます。
文化芸術の現場では、お金にまつわるスキルが非常に重要で、なおかつ得意な人が少ないのが課題です(私自身も企画や創造活動には躊躇なく飛び込んでいけますが、経理や事務が震え上がるほど苦手です)。
なので五藤さんの仕事は需要が高く、依頼に合わせてチームが必要になり、2018年に株式会社countroomを設立。約10名のメンバーとともに、多くの文化団体の会計を担うようになります。しかし、より専門的なサポートを提供するためには税務知識が欠かせないと感じ、税理士資格取得を優先することに。五藤さんが税理士事務所で修行するため、2022年にcountroomを解散しました。他にはなかなかない会社だったので、大変惜しまれて解散していく様子を友人として近くで眺めていました。
そんな五藤さんが2025年夏、税理士として晴れて独立することになりました。それを聞いて一緒に会社を経営することを私から持ちかけたのです。「きてん企画室の社長にならない? そしてもしももう一回、countroomのような会社をやる予定があるなら、きてんの事業としてやってみない?」と。
これからのきてんでは、五藤さんが経営者を担うだけではなく、五藤さんが事業リーダーを務める「きてん会計室(会計受託業務)」も展開していきます。
こうして、「伝える」以外にも、「お金」のことを支える仕事が新たにできるようになりました。
五藤さんとは10年来の友人……というか「仲間」です。そもそもの出会いは……かなり困った状況から。
当時の私は独立前。新米の財団職員で、アートプロジェクトを運営するNPOと共催型で事業を進める仕事を担当していました。そのなかでも大変だったのが経理の確認業務です。
勤めていた財団は経理ルールがかなり厳しく、共催先のNPOの会計報告に対して管理部門からの厳格なツッコミを伝達するのが私の仕事でした。
多くの団体は「(大変だけど)そういうものか……」と付き合ってくれていたのですが、「このルールはおかしくないですか?」「なんでこんな方法をとるんですか?」と、真っ向から抗議してきたのが、当時NPO側の会計担当だった五藤さんです。
恥ずかしながら当時の私では、経理ルールのロジックや根拠をうまく説明できませんでした。またルールそのものを変更できる立場でもなく、先輩や管理部門の間を右往左往しながら「五藤さん、このあたりで納得してほしい……」と内心は思っていたし、若干態度にも出ていたと思います。
とはいえ、他団体と比べても明らかに厳しい経理ルールがNPOに負荷をかけていることは明らかでした。組織間の不均衡を思うと正直、胸が痛かったです。五藤さん自身も多くの現場に及ぼす影響を憂いていました。
そんな出会い方だったので、五藤さんには「長いものに巻かれて改革もできない駄目な職員」だと思われているだろうな、申し訳ないなと思っていました。
それだけに2018年、私が独立したタイミングで「僕も会社(※当時のcountroom)をつくるのでメッセージづくりの相談に乗ってくれませんか」と五藤さんから突然依頼を受けたときはびっくりしました。
再会してわかったのは、「中田さんなら、あのルールの課題について一緒に憤ってくれる気がしていたから」という直感を持っていたということです。どうやら信頼されていたようです。気づかなかった……!
そう、わたしも五藤さんも「これ、おかしくない?」が気になって、我慢ができない性分だったのです。
実際、私は(事業内容や同僚はとても好きだったのですが)組織の事務手続きや厳密なルールになじめず、財団を3年で辞めました。
その後、五藤さんとは、countroomの立ち上げメッセージづくりを手伝ったり、五藤さんが企画したプロジェクトのネーミングと冊子づくり(芸術実務問答)を担当したり、互助会的な活動(ねこのやりかた)を一緒に運営したり、会計税務本をつくるプロジェクトをサポートしてもらったりして、なにかと関係が続いていきます。
そしてある日ふと、「この先も私はひとりぼっちで会社をやっていくのだろうか。なかなかしんどいなぁ」と思ったとき、ひらめいたのです。
五藤さんならきっと、きてんが叶えたいことを共有できるし、私が言っていることを理解した上で独自の意見を返してくれるし、小さな組織が社会に対してできることを意地でも探っていくだろう、と。
大きな組織や情報発信が巧みな人ばかりが“強く”て“勝つ”世界ではなく、不器用でも小さくても悩みが多くても本当にやりたいことを真っ当な方法で手掛けていく人たちが社会を形成していく一助となりたい。
この理想が共有できて、一緒に実行できる数少ない相手だと信じていました。
心優しくて穏やか。なおかつ不均衡や筋の通っていないことには真っ当に憤って言葉にする。そんな五藤さんと会社をやってみたら面白いかもしれない。
そうして共同経営に誘ったところ、五藤さんはびっくりしつつ、わりとすぐに快諾してくれました。そんな予感もしていました。やっぱりね!
と、いうことで、前置きが大変長くなりましたが、改めて。
株式会社きてん企画室はこの春、五藤さんを経営メンバーに迎え、新しい形になります。
社名も「株式会社きてん」とし、「会計室」事業も加わり、現在よりはもう少し大きな組織になることを目指します。スタートメンバーとして天羽絵莉子さん、原田恵さんも参画してくれて、4名体制です。チームを育てていくこと、社会づくりにコミットする企業経営の方法など、新しいことに挑戦していきます。
大きく空に向かって枝をぐんぐん伸ばすというよりは、より深く広く根を広げていくイメージで、意思のある活動体が健やかに活動していく社会をつくる組織を目指します。
とはいえ、この会社が中田が創業した場であることは変わりませんし、大切にしていきたいことも継続できるはずです。
これまで関わっていただいた皆様にも、これから関わっていただく皆様にも、暖かく見守っていただけたら嬉しいです。
Text by
事業のきてんをつくるバックオフィスカンパニー〈株式会社きてん〉の代表取締役/きてん企画室ディレクター/プランナー。さまざまな組織の広報コミュニケーション活動をサポートしています。広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。