きてん企画室のタグラインを思いついたとき、ひとつ心に決めのは、ブランドロゴはつくらない(=ビジュアル・アイデンティティを設定しない)ということ。
その代わり、コンセプトに則ったツールをつくっては、そのアプローチをアイデンティティとしよう、と、決めました。外から見てわかりづらい仕事なので、「機転のきかせかた」そのものを事務所の姿として表そうと考えてのことです。
(と、いいつつ、「せっかく個人事務所だし、ここでしかできない遊びをしたい〜!」というのも本音ですが)
こうして今回、きてん企画室のツール第1弾「名刺」の制作をお願いしたのは、イラストレーターの遠山敦さん。
遠山さんは、わたしが紹介するのも恐縮なぐらい、さまざまな媒体(雑誌・書籍の装画、CDジャケット、テキスタイルデザインなど)で活躍されています。イラストを描くことはもちろん、ワークショップやライブペインティング等、「描くことを楽しむ」活動も勢力的に取り組まれている方。
そんな遠山さんに、わたしが名刺制作をお願いした理由は3つ。
1、忘れられない「線」がいい
遠山さんのドローイングは一見可愛いのだけれど、線の緩急が激しくて、どこか「引っかかる」印象を受けます。消化できないというか、ちょっと違和感が残るので忘れられないというか。その感じが、すごく好き。そして、「忘れられないこと」は、覚えてもらうための名刺にぴったりだなあと思いました。
2、人柄にあやかりたい
初めてお会いしたのは去年の6月、たまたま訪れた展覧会の会場でした。初対面からとても楽しくお喋りした記憶があります。その次にお会いしたのは、なぜかわたしの家での「芋煮会」。静かだけどフレンドリー、フットワークが軽くて神出鬼没。そんなチャーミングな大先輩に門出の制作物をお願いして、素敵な人柄にあやかりたいなあと思ったのです。作品とはまた別の視点で恐縮ですが、コミュニケーション事務所だからこそ、「ご縁」は大切にしたいと考えてのこと。
3、思いきり遊んでくれそう
そして何よりも遊び心が溢れる作風が素敵! イラストもそうだけど、季節ごとに届く遠山さんのお便り(可愛いイラストを印刷し折り畳んだプリントがそのまま郵送されてくる)や、印刷の仕組みと制約を上手につかった作品づくり、子どもが参加するワークショップの描画ルールの設定など、「絵の周りのこと」まで直感的かつ丁寧にデザインされている点がユニークです。名刺ひとつでもたくさん“遊んで”いただけそう、と、感じました。
などなど、色々思いめぐらせながら、今年2月、東京で開かれた遠山さんの展覧会『UNTITLED@TITLE』に伺ったのですが、そこで思わぬアクシデントが。間抜けなわたしは会場の階段から落ちてしまったのです…。
▼そのときの日記的なInstagram
https://www.instagram.com/p/BfDTkV7jNwm/?taken-by=ich_co
幸い怪我はせずに済みましたが、とにかく間抜け。名刺制作のお願いはその場で快諾していただけたけれど、あれは恥ずかしかったです…。
その階段落ちのときに、わたしが握っていたのが神社の「狛犬」をモチーフとした遠山作品でした。
https://www.instagram.com/p/BfQ1utGjvfM/?taken-by=ich_co
ということで、出だしから色々あったものの、遠山敦さんにお願いした「きてん企画室」の名刺がこのたひ完成。
表情ゆたかで、ゆるっとした4種の「狛犬」が主役です。可愛い。(これで、いつ階段から落ちても大丈夫)
わたしがお願いしたのは、「会話の起点になるような名刺をイラストレーション中心に考えてください。同時に、工夫を際立たせたいので、普通の名刺サイズ(91×51mm)であることは守りたいです」ということのみ。
そこから遠山さんに提案いただいたのは、名前、屋号、メールアドレス、携帯の最小限の情報を分散させて、情報の少なさに表も裏もみてしまう(であろう)仕掛け。片面だけで情報完結しない、両面クルクルしないと成り立たないという、ユニークな名刺です。両面に描かれているのは、狛犬の「阿吽」それぞれの姿。
予想を超えた、大胆なアイデア…!!
初めて案を拝見したときはびっくりして、そしてしっかり笑いました。たしかに会話の「起点」になること間違い無し、です。
その後は、表裏(阿吽)の描き分けの細かい調整、複数パターンで展開するための色やバリエーションの設計などを丁寧にしていただきました。シンプルながら、沢山の「機転」をきかせた名刺なのです。
ちょっと他では見ない、良い塩梅でアヤシイ名刺になったと思います。もらった相手も「これって…」と、触れずにはいられないはず。「どんな話し方をしながら渡そうかな〜?」 と、色々思いめぐらせている今日このごろです。遠山さん、本当にありがとうございました。
お会いした人から順番にお渡ししますので、どうかお楽しみに。
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“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。