「やってきたことを正直にちゃんと伝えたらいい出会いがある……と信じているような、そういう態度は改めたい。もう時代が違うと思う。だからエッジィな方に企画を振ってくれてかまいません」
つい最近、とある企画会議にてクライアント側の責任者の方にこんなコメントをいただきました。
こちらからはなかなか言えないことを、よくぞ声に出してくださった……と、ちょっと感激してしまいました。この視点こそ、コミュニケーション活動においての本質だと常々感じていたからです。
広報コミュニケーションにまつわる仕事をしていると、よく聞こえてくのが「いい事業(会社)なのに、いいところが表に出てなくてもったいない」という声。もったいないのは本当にそう。本当にそうなのですが、一方で「表に“いいところ”が伝わればいいことがある」という思考は、ちょっと楽観的過ぎるかもしれません。
冷たい書き方になってしまいますが、いいものだとしても、必要とされなければ「いい結果」は出ないのです。
受け手が何を求めているのか、世の中は今どういう気分なのか、他にどんないいものがあるのか。競合やターゲットの問題だけでなく、あれこれ複雑な要因がからまってようやく「必要」はひょっこり顔を出してくれます。しかも「必要」だけではなく、「重要」にならないと、事業や会社としては続いていきません。
このテーマで話し合うとき、きてん企画室では「“モテない”からはじめましょう」と言うようにしています。興味を持たれていない、ニーズがないかもしれない、時代に即してないかもしれない。
ちょっとキツい言い方ですが、「本当はみんな自分に憧れているのに、自分がそこまでアプローチしていないだけ。しかるべき場所に出れば絶対モテる」みたいな謎の自信は捨てて、「モテない」からはじめたほうがずっと真摯かつ真剣に取り組めるからです。
もちろん自信があるからでなく、単純に今やっていることを言語化したり、可視化することすら難しいという事情もあるでしょう。だけど、難しいのはどの組織も同じだからこそ、ただ伝えるよりも一歩先に行くことに意味がある。
きてん企画室がわざわざ「企画」を掲げているのも、一歩先に行くために、仕掛けること、企むこと、図ることが必要だと信じているからです。
そんな感覚を、冒頭のクライアントは「エッジィな方」と指差ししました。おもしろい。じゃあ、何をどう磨いて尖らせていくべきか。それはわたし達企画チームに渡された宿題です。重いけれど、わくわくしてにやにやしちゃいます。これぞ楽しい仕事。時間をかけて頑張ろうと胸に誓いました。
ちなみに。その日、企画パートナーの編集者さんがにこりと笑い、「そうですね。さっき、さんざん対象の話をしてしまいましたが、本当にエッジィでいいものをつくったら、出会いたい人がやってくるんですよ。それでいいとわたしも思います」と言ったことは忘れません。
その「いいものをつくれば、いい出会いがある」というフレーズは、問題の思考回路と同じようでいて、また違います。新しいプロジェクト、新しいパートナーと取り組む、そのヒリヒリした兆しにも胸が躍ります。さて、どんなものができるかな。
[ Illustration by Atsushi Toyama ]
Text by
“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。