どうして苦手なんだろうね?<br>(ことばのYes/Noリストをつくろう)

どうして苦手なんだろうね?
(ことばのYes/Noリストをつくろう)

日記 - 2016.1.7

*本記事はアーツカウンシル東京在職時に執筆していたMedium Magazine「ヤギに手紙を届ける」から転載しました。

キャッチコピーで使われるときの「僕ら」ということばが、前々からちょっと苦手です。それは、たぶん、わたしが女性だから。正確には、女性用の一人称しか使ったことがないから。

「僕らの世代」「僕らの未来」「僕らの街」という表現に出会うと、なんだか自分が弾かれているような気がして、寂しいのです。

もちろん、男性に狙いを定めて書かれたコピーだったら違和感はありません。「僕」が一人称の人の文章で登場しても違和感ありません。でも「そこそこ若い世代全般」を狙って作られた広告表現だったりすると、ちょっと冷めちゃう距離感を感じる。

そんな風に、決してNGではないのだけれど、よく考えてみると少し悩む表現が世の中にはあります。

この特定のことばに対して悩む、ひっかかるという感覚、コミュニケーション・デザインにおいては、大事なヒントです。

実際の仕事でも、いわゆる一般的な表記統一リスト(記号の使い方とか、正式表記とか)作成に加え、その組織やプロジェクト独自の「使うことば・使わないことばリスト」をメンバーと議論すると、そのチームの価値観やミッションがとてもクリアになるのでオススメですよ。

たとえば、すごく基本から考えてみると、こんな感じ。

正解はありません。でも、どれがフィットするのか、“ことばの試着”をしてみると、発見も多いですよ。

たとえば以前、ロフトワークを卒業する際に新人広報に向けた公開引継ぎ記事を書いたのですが、その中では「私たち」を薦めてみました。

当社、弊社、自社、我々、ウチ。所属する組織を指す表現はたくさんあります。その中でも私のおすすめは、 「私たち」。騙されたと思って、一度意識的にこの言葉をつかってみてください。


「当社は クリエイティブの流通をミッションに活動しています」
「私たちはクリエイティブの流通をミッションに活動しています」

たとえば、こんな風に変えるだけでも、ニュアンスが絶妙に違ってきます。ふと立ち止まって考えると、「会社」や「事業」には、形がありません。確かに存在するのは人の集団だけ。私がいて、仲間がいて、「私たち」の活動や意思の総体が、企業を形づくっています。

もちろん声の大きさも活動量もそれぞれバラバラではあるけれど、「私たち」であるという気持ちはとても大事。人は「企業」と仲良くすることはできません。「企業の中の人」と接しているんです。


「私たち」からはじめてみると、ぐっと責任が重くなる分、気持ちのこもり方も変わってきます。



(引用元:新人広報に伝授したい、教科書にはない5つのこと |株式会社ロフトワーク

これは別に全ての組織に当てはまる正解ではありません。ただ、この組織の魅力は、柔らかなチームワークだったり、ひとりひとりが楽しく働いているコミュニティの色にあるから、「当社」と名乗った瞬間にビジネスライクになって2度ぐらい温度が下がるのは避けたいと考えたのです。

どのことばを使うか、使わないか。それはなぜなのか。

小さな問いに向き合いつづけることで、独自のコミュニケーションが生まれていくはずです。

わたし個人は「僕ら」が苦手だけれど、きっとプロジェクトやチームによってはガンガン多用していくこともあるでしょう。それもまた良し、です。

中田一会 (なかた・かずえ)

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中田一会 (なかた・かずえ)

“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。

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