きてん企画室では、 島根県浜田市弥栄(やさか)町のコミュニケーションツールとして、弥栄の風景を届けるポストカードを制作しました。
弥栄町は、島根県のなかでも「秘境」と呼ばれる場所にあります。いくつものトンネル抜けた先、たどりつくのは山あいの穏やかな田園風景。コンビニも信号もなく、春は桜に彩られ、冬は深い雪に囲まれます。
そんな弥栄は、数十年前から農業の先進地域としても知られています。昭和50年代から「集落営農」という組織的農業経営の仕組みをつくり、平成に入ってからは他地域に先んじて「有機農業」に取り組み、近年では先端技術を取り入れて労働負荷を軽くする試みを導入しています。
きてん企画室では、2018年度、弥栄の農業における戦略や想いを伝えるパンフレット制作を担当し、そのご縁もあって今年度コミュニケーションツールの企画制作にお声がけいただきました。
「農産物を発送するときに添えるチラシをつくりたいんです」
最初ご相談いただいたときの制作物は「チラシ」でした。目的はふるさと納税の返礼品であるお米や野菜に、弥栄の情報を添え、地域に対して関心を持ってもらうこと。「こんな地域があるのか」「ここでつくられた農産物は美味しそうだな」と感じてもらうこと。
それならば、チラシじゃなくてもいいかもしれない。もっと「贈り物」だと認識してもらうような、手紙を添えてもいいかもしれない。きれいだからとちょっと残しておきたくなるような、そんなもののほうがいいかもしれない。農産物を買ってくれる人は、いったいどんな人だろう? 弥栄の何に触れたら関心を持ってくれるだろう?
そんな形で、弥栄の人たちと相談するうち、生まれた企画が「ポストカード」です。
折りよく弥栄には、写真家・谷口京さんが四季を通して撮影してくださった素晴らしい風景写真がありました。また、昨年度のパンフレット制作で取材させていただいた、弥栄の農家・串崎文平さんの豊かな言葉のことを思い出しました。
谷口さんの撮影した風景に乗せて、串崎さんが大切にしている弥栄の風景を言葉で残したい。それをポストカードにして、発送のときに職員さんが一言添えたら、弥栄の風景と人の手触りが届くかもしれない。
そうして誕生したのが今回の4種類のポストカードです。
表の写真は、谷口さんの風景写真を浜田市弥栄支所職員の岡田さん・曽我さんに選んでいただきました。「弥栄らしい」と感じる四季の風景が、まちの人ときてん企画室では違っていたことも発見です(当たり前なんですが…)。しっかり選んでいただけて本当によかったです。
宛名面には、農家の串崎さんに直接取材させていただき、きてん企画室・中田が四季のことばとしてまとめたテキストを掲載しました。「春は気持ちが燃える」とおっしゃった82歳の串崎さんの言葉が本当に印象的でした。四季に合わせて農家はどのように暮らしてきたのか、そのリズムが崩れつつある現在のことなども、取材時にはたくさん伺いました。
それらの素材を束ね、シンプルかつギフト感のある手触りにしあげてくださったのは、島根県益田市のデザインスタジオ、益田工房の桑原さんです。大変お世話になりました。
こうして出来上がったポストカードは、「地域にあるもの」を編み集めて仕上げた、素朴なコミュニケーションツールです。だからこそ、人と人との対話の起点になる「余白」が宿るのでは、と期待しています。届きますように!
*「弥栄の農業に興味が湧いた!」という方がいたら、ぜひ「秘境 奥島根 弥栄」のウェブサイトを見てみてください。とても美しい、そして美味しいお米が生まれる場所です!
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“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。