いい匂いがする。行かなきゃ。気になる。
先週金曜、ちょっと迷ったけど小さな旅に出た。
行き先は、愛知県名古屋市港区の「港まちポットラックビル」。
港まちづくり協議会が運営している拠点で、まちと人に関わるイベントや、デザインにまつわるユニークな企画、現代美術の展覧会などを開催している場所だ。数年前、まち全体をつかったアートイベントを開催していたときに、一度だけお邪魔したことがある。
という程度のご縁なのだけれど、港まちポットラックビルの企画はちょこちょこ気になっていた。それは「ポットラック新聞」をよく目にしていたから。協議会が発行する広報紙で、他の似たようなメディアとはちょっと雰囲気が違うというか「いい匂い」がする不思議な新聞だ。
企画、構成、デザイン、言葉のすみずみまで気がきいていて、奇抜なことをしているわけではないけど、他にはない切り口がある。読み物としてほどよく軽く、深いところは深く、受け取って楽しいまちのフリーペーパーだ。
職業柄、いい匂いのするメディアを見つけると、ついクレジットを見てしまう。編集には、関西で活躍する編集チーム「Re:S(りす)」の竹内厚さんのお名前があって、どんな人だろうとずっと気になっていた。
そしてこの2月にフリーペーパー展と竹内さんのワークショップがあるという。これは……行くしかない!と、向かったのだった。
「え、うそ、本当に?」「なんてスパルタ!」
ワークショップがはじまって数分、初対面の人と顔を見合わせて笑った。そこに居合わせた全員がびっくりしていたと思う。だってその日に、取材〜編集会議〜執筆〜レイアウトまでやって1枚のフリーペーパーをつくるというのだ。妙に長いワークショップだな……とは思っていたけど、まさかつくりきるとは。
竹内さんやポットラックチームによるレクチャーもそこそこに、初対面の人ばかり8人前後のチームに分かれ、「ポットラック新聞 かわら版」のつくりかたをお手本に取り組むことになった。
と、ワークショップの興奮レポートはここまでにしておいて。(いつも開催側なので参加は楽しいばかりで最高。ちょっとはしゃぎすぎた……)
かわら版ワークの前後に、Re:S竹内厚さんとポットラック新聞編集チームによるレクチャーや公開編集会議があって、興味深いお話もたくさん聞けた。
トークの中に出てきたこともあるし、そのあとの懇親会で伺ったこと、帰り道にひとり悶々と考えたことも混ざっているけれど、手元にはこんなメモが残っている。
● 新聞と日記は編集の技としてつかいやすい形式
● 面白くするチャンスは3回ある(ネタ探し、編集会議、執筆)
● ビジュアルが強い時代において、ビジュアルに頼らずみんなが書ける形式を探す
● 「タブロイド版」(全国向け)と「かわら版」(町内限定)があることで遠近感が出る
● 「かわら版」では「取材できなかった」ことすら記事にしている
● まちのフリーペーパーはすぐに内容が似てきてつまらなくなる。見せ方の工夫が大切
● 入れなきゃいけないコンテンツは、収まりのいい枠をつくることで可能になる
● 重さ軽さのバランスをとる
● 発信者が伝えたいことを前面に出したところで読んでもらえない
全体の方針を決めることも、つくりかたを決めることも、NGラインを見定めることも「編集」だ。進行管理や原稿管理だけが編集ではない。
構造をつくるとか、構成を整えるという所作は、なかなか表に出てこないけれど、編集が効いているか否かはちゃんと紙面に現れると思う。読者をみて球が投げられている、ちゃんとキャッチボールになるようにつくられているーーそれがきっと「いい匂い」の正体だ。
「ポットラック新聞 タブロイド版」のバックナンバー全号を手にして、ああ、やっぱりすごいなぁと思いながら帰途についた。いい仕事をみると、背筋が伸びる。行ってよかった!
*追記&メモ:ポットラック新聞は、3年前のフリーペーパー展から始まっていて、今回はその振り返り的な企画とのこと。現在、タブロイド版は年3回・全国に向けて1万2000部発行、かわら版は毎月町内会や回覧板で町内全戸配布している。届け方の設計も上手。
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“機転をきかせて起点をつくる”「きてん企画室」の代表/プランナー。文化・デザイン・ものづくり分野の広報コミュニケーション活動をサポートしています。出版社やデザインカンパニーの広報PR/編集職、文化財団の中間支援兼コミュニケーション職を経て独立。